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什器は、ただの「棚」じゃない。心を動かし、購買を掴む「ミニ舞台」だ。〜リバティープロが語る、売れるコスメ什器の7つの極意〜

  • kanai010
  • 9月17日
  • 読了時間: 10分
心を動かし、購買を掴む「ミニ舞台」
心を動かし、購買を掴む「ミニ舞台」

化粧品業界の激しい競争において、店頭の役割は単なる商品陳列から、消費者の心を動かす「体験の場」へと大きく進化しています。多くの事業者は什器を「商品を並べるただの棚」だと考えがちですが、それは店頭の潜在能力を最大限に引き出せていない可能性があります。


情報過多の時代だからこそ、リアルな店舗は五感を刺激し、記憶に深く刻まれる「劇場」でなければなりません。そして、その舞台の中心を担うのが、適切に設計された化粧品什器です。


本レポートでは、長年の現場経験から培われた知見に基づき、売上を向上させる化粧品什器の極意を7つの視点から解説します。机上の空論ではなく、現場で実際に消費者の行動を変え、購買へと導いてきた実践的な哲学を詳細にお伝えします。


極意その壱:見て、触れて、感じて。五感に「ブッ刺さる」什器の秘密


冷やし雪肌精のプロモーション什器
冷やし雪肌精のプロモーション什器

成功する化粧品什器の共通点は、視覚的な美しさだけにとどまりません。それは、消費者の五感すべてに訴えかけ、商品と消費者の感情を強く結びつける力です。五感を揺さぶる体験は、単なる好奇心を超え、脳科学的にも購買行動に直結する重要なポイントとされています。


その具体例として、株式会社リバティープロが手掛けたコーセー雪肌精の「冷やし雪肌精」プロモーション什器が挙げられます。この什器は、ブランドの世界観である清涼感と透明感を店頭で再現するため、「本物の氷」と見紛うほどの超リアルな空間を演出しました。これは、特殊樹脂素材「SUITEKI」による「水表現」の技術をさらに進化させたものです。

 

この什器の最大の効果は、「あるはずのないものが、そこにある」というサプライズにあります 。この違和感が通行人の足を止めさせ、「これは一体なんだろう?」という強い好奇心を刺激します。この驚きと発見こそが、什器本来の目的である「注意喚起」と「記憶定着」を強力に後押しし、プロモーションを成功に導きました。


さらに、この什器は触覚にも配慮して設計されており、実際に触れてみたくなるような質感を持たせることで、単なる視覚的な美しさを超えた体験を提供します。ポーラ化成工業の研究によれば、肌に塗って心地よいと感じる(弾性が高い)製品は、脳の「魅力認知」に関わる前頭前皮質(aPFC)を活性化させることが明らかになっています。このaPFCの活性化は、視覚や他の感覚で感じる印象まで高める可能性があるという知見も得られています。


つまり、什器の触り心地やテスターのテクスチャーが消費者の脳をポジティブな状態にし、その結果、商品の見た目やブランド全体をより魅力的に感じさせるという、感覚の連鎖反応を引き起こすのです。   


また、嗅覚は人間の記憶と強く結びついており、特定の香りを経験することで無意識に良い印象や楽しかった体験が呼び起こされます 。什器がテスターを介して心地よい香りを放つことで、それが顧客の記憶に残り、次回来店のきっかけや購買行動に繋がる可能性があります。


これらの五感への複合的なアプローチこそが、単なる商品陳列を超えた「脳に刻まれるプロモーション」の核心となります。   


この五感の重要性を理解するために、以下の表にその心理効果をまとめました。超リアルな氷の表現、ブランドカラーの活用。そして思わず触れたくなる特殊な質感、テスターの設置。


感覚

顧客に与える心理効果

什器への応用例

視覚

感情に直接訴えかけ、ブランドの世界観を伝える。   

色の効果により、ブランド認識を80%高める。   

触覚

安心感や心地よさを提供し、脳の魅力認知部位を活性化。   

商品への興味と記憶を強く結びつける。   

嗅覚

記憶と強く結びつき、ブランドへの愛着を育む。   

テスターの香り、店舗独自の香り演出。   

聴覚

空間の雰囲気を演出し、心地よさや期待感を高める。   

BGMや商品に連動した効果音の活用。

味覚

商品へのポジティブな連想や、体験の深みを増す。

試飲可能な飲料やサプリメントの提供。


極意その弐:まずはお試し。トライアルが拓く購買への道


顧客は「買って失敗したくない」という強い心理を持っています。特に、通販やフリマアプリでの「トライアル消費」が増加している背景には、店頭で試す機会が減ったことや、失敗を避けたいという顧客の強いニーズがあります。この心理を捉え、店頭でのトライアル機会を最適化することが、購買率向上に直結します。   


具体的な施策として、まずテスターの徹底管理が不可欠です。清潔感を保つことはもちろん、試しやすい配置を工夫し、テスターの使用方法を説明する小型のPOPを添えることが有効です。これにより、顧客がテスターを試す際の心理的ハードルを下げることができます。   


また、ミニサイズやサンプル提供も強力な手法です。あるドラッグストアでは、レジ横に人気商品のサンプルを置いたところ、実際の購入率が20%も向上したというデータがあります。さらに、サンプルを使用した人の約7割が実際に商品を購入し、そのうち3人に1人がリピーターになるという調査結果も存在します。

   

これらのデータは、トライアルが単なるお試しではなく、顧客との間に「安心感と信頼」を築くための強力なツールであることを示しています。コロナ禍を経て、通販での失敗を経験した顧客にとって、什器による店頭でのトライアル体験は、ECやフリマアプリでの購買行動の分断を埋める「接着剤」としての役割を担っているのです。   


極意その参:売場は「目線」で決まる。黄金ラインのテクニック


目線と手に届く範囲
目線と手に届く範囲

什器の高さや商品の配置場所を変えるだけで、売上は大きく変わります。これは、長年の現場経験から得られた鉄則です。顧客の「目線」と「手の届く範囲」を科学的に捉えることが、売れる売り場作りの鍵となります。   


最も商品が手に取られやすいとされるのが、女性の平均身長(約150-160cm)の目線から10-30cm下、具体的な高さで言えば120-140cmの範囲です 。この「ゴールデンライン」と呼ばれる領域に、最も売りたい目玉商品や新商品を配置することで、多くの顧客の目に留まり、手に取ってもらう機会が増加します。   


さらに、人間の視線は陳列棚を左から右へと移動する傾向があるため、ゴールデンラインの中でも中央から右側に特に売れ筋の商品を配置すると、購買に繋がりやすくなります。このように、什器は単に高さを意識するだけでなく、人間の無意識の行動をコントロールする「魔法の装置」としての役割も果たします。   


極意その四:顧客は旅人だ。売場の「動線」を設計せよ。


什器は固定されたものではなく、顧客の動き(動線)を戦略的にコントロールするツールです。顧客が快適に回遊し、より多くの商品に出会う動線を設計することで、店舗での滞在時間を延ばし、非計画購買(ついで買い)を促すことができます。 

  

回遊性を高める一つの手法として、通路の中央に什器を設置し、既存の動線をわずかにずらすことで、顧客が自然と商品を視界に入れ、立ち止まるきっかけを意図的に作り出す方法があります 。また、入り口から壁沿いに奥へ進む「逆L字型」の動線を設計し、その途中の立ち止まりやすい場所にゴールデンラインの什器を設置することも効果的です。   


動線設計において重要なのは、顧客の動線と従業員の作業動線を明確に分けることです。作業効率を考えたバックヤードやレジ周りの動線と、顧客が快適に回遊できる動線は、分けて考えることで、双方にとってストレスのない売り場を実現できます。

   

極意その五:什器は「物語」を語る。ブランドの魂を宿らせろ。


什器は、ただ商品を飾るための台ではありません。それは、ブランドの「世界観」を伝えるための「ミニ舞台」であり、一種の「ストーリーテリング」のメディアです 。什器にブランドの魂を宿らせることで、顧客は単に商品を買うのではなく、その「物語」に参加し、共感する体験を得ることができます。   


その具体的な手法として、ブランドの世界観を視覚的に表現するデザインがあります。例えば、ハチミツを配合した商品ならハチの巣のモチーフを、潤い感を訴求する商品なら水滴や柔らかな曲線を什器に取り入れることで、商品の特徴を直感的に伝えることができます。 

  

また、従来の紙什器だけでなく、特殊樹脂、アクリル、金属といった多素材を組み合わせることで、より豊かな表現が可能となります。この多素材の組み合わせは、ブランドの独自性を際立たせ、他社との差別化を図る上でも有効です。この感情的な結びつきが、価格競争に陥らない強いブランドロイヤルティを生み出すのです。

   

極意その六:アナログとデジタルの最強タッグ。


デジタル広告が溢れる現代だからこそ、リアルな店頭の価値は高まっています。しかし、リアルだけでは不十分です。物理的な什器とデジタル技術を組み合わせることで、顧客体験をさらに豊かにし、購買行動を加速させることができます。  

 

QRコードの設置は、その手軽さと効果から多くのブランドで採用されています。商品の詳細情報、使い方動画、インフルエンサーのレビュー動画など、オンラインコンテンツへの誘導を促すことで、リアルな体験からデジタルでの情報収集へとスムーズに繋がります。


また、デジタルサイネージの活用も効果的です。静的なPOPに比べ、視覚的な訴求力と表現力が格段に高く、おすすめ商品やプロモーション情報を効果的に表示し、非計画購買を促します。花王の事例では、デジタルサイネージ戦略によって売上が40.5%アップしたという報告も存在します。   


リアルな什器は顧客を「立ち止まらせる」きっかけであり、デジタル技術はそこから「購買」へと繋げるための橋渡し役です。雪肌精のプロモーションがSNSで話題になったように、店頭での「体験」がデジタル空間での「話題」となり、新たな顧客をリアルな店舗へと呼び込む循環を生み出します。什器はもはや、リアルとデジタルを結ぶ「体験型メディア」へと進化しているのです。   


極意その七:地球にも心にも優しい。「サステナブル」という新しい価値。


現代の消費者は、単に商品の機能や価格だけでなく、企業が社会や環境にどう向き合っているかを重視するようになっています。什器づくりも例外ではありません。サステナブルな什器は、ブランドの倫理観を可視化し、顧客からの信頼と共感を獲得する強力なツールとなります。   


その事例として、株式会社ファンケルは植物由来の生分解性プラスチックや、紙パウダーを主原料とする環境配慮型什器を導入し、温室効果ガス排出量の削減に貢献しています。また、クリーンビューティブランド『7NaNatural』は、大量廃棄のサイクルを「Rethink(再考)」し、間伐材から作られた「カラーMDF」という素材を使い、リペア(修復)しながら「使い続けられる什器」を開発しました。   


サステナブルな什器は、単なるコスト増ではありません。カラーMDFのように素材そのものがデザイン性を持ち、他社との差別化に繋がります。さらに、再利用可能で、ブロック状に分解・再構築できるモジュール設計の什器は、レイアウト変更にかかる時間と労力を削減し、長期的なコスト削減にも繋がります 。これは、「環境への優しさ」と「ブランド価値の向上」、そして「ビジネス効率の改善」を両立する、まさに未来の什器づくりの思想です。   

以下の表に、従来の什器とサステナブルな什器の比較と、その利点をまとめました。


項目

従来の什器

サステナブルな什器

主な素材

プラスチック、ダンボールなど

PLA(ポリ乳酸)、MAPKA、カラーMDF、再生紙など   

デザイン性

印刷・加工で表現を追求。素材による制限あり。

素材そのものが持つ独自性がデザインになる。   

環境負荷

製造・廃棄時に温室効果ガスが発生。

廃棄時のCO2排出量を削減。循環型経済に貢献。   

コスト

初期費用が安価なものが多い。

初期費用は高くなる傾向だが、長期的にはコスト削減に繋がる。   

耐久性

一時的な使用が前提の紙製など、使い捨ての印象。

修復可能で「使い続けられる」設計。   

ブランドイメージ

機能的な商品陳列の役割。

企業の倫理観を可視化し、顧客からの共感を得る。   


結論


化粧品什器は、単なる商品を陳列する台から、五感を刺激し、動線を操り、物語を語り、デジタルと繋がり、そして地球環境にも配慮する、複合的な「体験型メディア」へと進化しています。


デジタル情報が氾濫する今だからこそ、リアルな体験こそが最も強く記憶に残り、最終的な購買とブランドへの愛着を生むのです。従来の「売るための装置」という考え方を捨て、什器を「体験を提供するメディア」として再定義する。それこそが、現代の競争を勝ち抜くための不可欠な戦略となります。


リバティープロは、これからもこの信念に基づき、「脳に刻まれる店頭販促」を追求し、什器の常識を覆し続けていきます。   




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