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【2025年総括】棚を制する者が市場を制す!究極の「手に取らせる」デザインへ / 化粧品什器トレンド最前線

  • 執筆者の写真: シンジ 福森
    シンジ 福森
  • 13 分前
  • 読了時間: 6分


2025年、日本の化粧品市場は大きな転換期を迎えました。その変化の震源地となったのが、私たちが日々向き合っている化粧品什器、特にドラッグストアの陳列棚です。商品の顔となるの在り方、お客様とのコミュニケーションの取り方が根本から問い直された一年でした。

本コラムでは、化粧品専門の什器ライターとして、この激動の2025年を振り返り、特に重要なトレンドと、来たるべき時代への示唆をまとめます。キーワードは「什器前だれ問題」、「テスター体験」、そして「三方良し」の棚づくりです。



什器前だれ問題の徹底解剖 / 店頭コミュニケーションの再定義

2025年、什器設計の現場で最も頭を悩ませたのは、ドラッグストアにおける「什器前だれ問題」、すなわち、フェイスポップ(フェイス・プロモーション)と呼ばれる什器前縁のPOPが店頭で外されてしまうという、プロモーション上の大きな課題でした。

フェイスポップは、商品の最も重要な訴求点を、お客様の目線に近い位置でダイレクトに伝えるための生命線です。それが店頭のオペレーション上の理由や、陳列ルールの厳格化によって次々と撤去される状況は、プロモーション戦略全体を揺るがす深刻な事態でした。

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30mmの壁を超越するデザイン戦略

特に問題となったのは、ドラッグストアの陳列棚にある「こぼれ止めレール」の仕様です。このレールにはプライスカードを差し込む設計となっており、商品側からの高さは30mm。この30mmという限られた空間が、デザインとプロモーションの新たな戦場となりました。

従来の什器設計のセオリーでは、什器のフロントの高さを40mm程度として、フェイス前だれPOPを飛び出させる手法が一般的でした。

しかし、フェイスポップが排除されるとなると、この「飛び出し」に頼る訴求はもはや不可能となります。

私たちが2025年に導き出した対策は、この30mmの壁を逆手に取る設計思想への大転換です。

什器デザインの新法則:30mmを飛び越える「情報の高層ビル」


今後、什器前縁の有効高さを60mm程度まで引き上げ、プライスカードが差し込まれる30mmの部分からさらに30mm以上飛び出た部分に、商品にとって最も重要なコア情報を凝縮して落とし込む必要が生じています。

これは、プライスレールに「内包される情報」と「上部に付加される情報」を明確に分離するデザインアプローチです。この構造的な変化により、逆にPOPアップ(ウレタン5mm)や反り止めといった、かつて前だれ部に付随していたコスト要素を削減できるという、思わぬ副次的なメリットも生まれました。

この「前だれ問題」への対応は、単なる什器のマイナーチェンジではなく、限られた空間の中でいかに情報を洗練させ、お客様の購買心理に訴えかけるかという、陳列の哲学そのものの進化を要求しています。


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テスター体験の「一触入魂」/カウンターとハンガー什器の進化

2025年のもう一つの大きなトレンドは、「テスター部分の表現方法」の進化です。

従来、化粧品の陳列においては、「全体をしっかり見せて、商品のラインナップを美しく魅せる」ことに重点が置かれていました。しかし、2025年にプロモーション成功を収めた什器は、むしろ「テスターを手に取らせる」ことに特化した設計が目立ちました。

特にカウンター什器において、この「手に取らせる」デザインは顕著でしたが、関心を引いたのは、ハンガー什器という制約の多い形式でも、この「一触入魂」の体験を実現できていたことです。

成功例に見られた共通点は以下の通りです。

  1. 「触る」ためのクリアな動線:テスターが、単なる「お試し品」ではなく、什器全体の中心に、あたかも展示品のように配されている。

  2. 競合を遮断するデザイン:テスター周りに、競合商品の視覚情報を極力入れない、あるいは特定のブランドの世界観に集中させるためのデザインが施されている。

  3. 情報伝達のミニマル化:手に取らせる瞬間まで、情報は最小限に絞り、手に取った後に初めて商品の詳細や香りの世界観が広がる、といった段階的な体験設計がなされている。

「とにかくテスターは手に取ってからがスタートです。」

この現場の鉄則を、紙什器やスチールのといったあらゆる什器タイプで徹底的に追求したメーカーが、激しい競合を勝ち抜きました。お客様はなぜ、数多のブランドの中から、あなたのテスターに手を伸ばすのか?この問いに対する答えを、私たちは何度も脳内でシミュレーションし、什器のディテールに落とし込む作業を重ねるしかありません。


進化する「香り」と「三方良し」の棚づくり

2025年は、特にシャンプー市場がかつてないほどヒートアップした年でした。この激戦区で数字を伸ばしたメーカーは、単なる商品力だけでなく、什器戦略を含む店頭プロモーションにおいて、ある共通の成功パターンを確立していました。

それは、問屋、店舗側、そしてメーカーの「三方良し」を設計するという、いかにも日本的な「和を持って尊しと成す」という流れを掴んだ企業群です。

具体的には、

  • 信頼関係の構築:問屋やドラッグストアの店舗責任者と、時間をかけて信頼関係を築き上げる。

  • 棚の確保とコントロール:その信頼関係を駆使し、単に陳列場所を確保するだけでなく、時期に応じたプロモーションのボリューム(フェイス数、什器の規模)を絶妙にコントロールする。

この「三方良し」を実現できた企業に軍配が上がったのは、市場の成熟を示す重要なシグナルです。プロモーションは、もはや什器を送り込むだけではなく、という最大の資産をパートナーと共に最適化する共同作業となったのです。


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花王ヘアケアの新時代と「香り」の深淵

この市場の動きを象徴するのが、本気を出した化粧品メーカーの動向です。

花王における「メリット」「エッセンシャル」といったロングセラーブランドのリブランディングと、「melt」「THE ANSWER」「MEMEME」といった新ブランドの登場は、まさにヘアケアが新時代へ突入したことを示しています。特に、ブランドディレクターの野原氏による戦略転換は、市場に大きなインパクトを与えました。

そして、この商品進化と並行して、「香り」のバリエーションがワンランク上がったことも見逃せません。

スキンケア、シャンプーともに、ここ数年で最も香りの深み、立体感、そして持続性が増した一年でした。ケミカル感が減少し、より複雑で奥行きのある「フレグランス」としての香りが台頭。これは、日本の香りの文化が、欧米の洗練された香りの世界観に急速に追いつきつつあるという、非常に期待の持てるトレンドです。

この香りの進化は、紙什器ハンガー什器の設計にも影響を与えます。テスター什器は、単に液体を出すだけでなく、「香りの拡散」をデザインの一部として組み込み、空間全体をブランドの世界観に染め上げるという、より高度な役割を求められるようになります。


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まとめ:2026年へ向けた什器プロの視点

2025年は、化粧品什器にとって、「排除されるプロモーション」「手に取らせる体験」の二つの大きな課題が突きつけられた年でした。

の制約を逆手に取り、コストを削減しつつ訴求力を高めるデザインへのシフト、そして、お客様が「なぜこれを選ぶのか?」という根源的な問いに対する答えを、テスター什器陳列のディテールに落とし込む努力が、市場の勝者を分けました。

来たる2026年、私たち化粧品什器のプロフェッショナルは、単なる「」や「ハンガー什器」を作る業者ではなく、「店頭での三方良しを実現するコミュニケーションデザイナー」としての役割が、より一層求められることになるでしょう。


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